青い部屋

ぼくのママン其の八:赤い部屋

mama09

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夜がくるのが怖かったーーー

誰もいなくなった家ーーー
学校でもひとリーーー
家に帰ってもひとリーーー

長い長い家で過ごす時間
時間を忘れさせてくれる何かを探した
ひたすらに本や漫画を読むようになった
いつまでもゲームに没頭するようになった
空想のキャラクターの絵を描いたりして時間をつぶした
いつもひとりで妄想のような想像を思い描くようになった
いつの間にか頭の中にもうひとりの自分が現れるようになった
そいつが俺の新しい友達になった

独り寝が続くとき。
俺はよくおそろしい悪魔の幻影を見てうなされていた。
幼児期のときには何度もひきつけを起こし、白目を剥いて痙攣していた。
その頃からの名残だった。夜に悪魔の幻影をみるようになったのは。

部屋を暗くし、夜ベッドに入る。
やがて緩やかに落ちてゆく夢と現実の隙間。
モヤモヤとした黒い煙のようなものが俺のベッドを包み込んでゆく。
黒煙はやがて輪郭を表し、揺らめき立つ黒い炎の様な形を作り出す。
歪んだ目と口があらわれ、俺に何かを訴えかけてくる。
夢なのか。現実なのか。それがわからない。
ただひとつ言えるのは、その悪魔がやってくる時はいつも頭の中が波打ち始め、揺さぶられるようになり、平衡感覚も時間感覚も失われてしまうということだ。

ここはどこなの?
いまはなんじなの?
おまえはいったいだれなんだよ!?

いつもだったらこのまま気を失うようにして朝を迎える。
けれど、その日はなぜだか現実の世界に引き戻されてしまった。

ひどい汗だった。
寝間着がぐしょぐしょになっていた。
いつの間にか煙の悪魔は消えていた。

俺は泣きながらベッドを這い出し、ふらつく足取りで壁伝いに歩いた。
助けを求めて誰もいない家の中を彷徨った。
誰もいない家…のはずだったーーー

いつもは人気のないガランとした家。
玄関を通り過ぎるときにちょっとした違和感を感じた。

ーーー靴。ママのハイヒールの横に、大きく黒光りした靴がある…
ーーー光。うっすらとした赤い光が真っ暗なはずの廊下に漏れ出ている…

あれは…ママの寝室だ…

まだ頭が揺らめいている。
汗が一気に引いていった。
経験したことのない異様な空気を感じていた。
俺はなぜだか息をひそめていた。

ママ…ママ…いるの?
帰ってきたの…?

ひどく怖くなった
見つかっちゃいけない様な気がした
床が軋んで音がするので忍び足で歩いた

そっと…扉の隙間から部屋をのぞく…
真っ赤な間接照明…それに照らされてふたつの身体が絡み合っている…
ひとりは…ママだった…
もうひとりは…見知らぬ男…

ショックは感じなかった…
何が行われているのかもわからないほどの子供だったから…
赤く照らし出されたふたつの身体…
なまめかしく…どこか退廃的な感覚…
夢中になって…舐めあって…
息を漏らして…うめきあう…

ママ…!?

しっ!しゃべっちゃだめだ…

思わず声に出そうになったとき、頭の中の俺が俺を止めた。
なぜーーーだなんて問い返すことはしなかった。
とっさに俺には理解できていたから。

あれは俺には関係ない。
あれは俺のママじゃない。
あれは俺の母親じゃない。
だって…見たことのない表情の、女の顔をしていたから。

男と女。
ふたつの影が折り重なりうごめいている様子ーーー
俺はただずっと立ち尽くして見ているだけだったーーー

ぼくのママン/NERO

(続く)
(挿絵:ミロ

 

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