青い部屋

ぼくのママン其の四:おばあちゃんの想い出

mama05

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ーーーおばあちゃんが死んだ

それは俺が小学校2年の時だった。
幼い頃、いつも一緒に遊んでくれたおばあちゃん。
足を怪我して以来ずっと入院し、そのまま寝たきりになってしまった。

ある日家に帰ってきたとき、おばあちゃんは死んでいたーーー

ーーー冷たくなった手
ーーー硬直した身体
ーーー二度と開くことのない瞳

初めて見る人間の死。
初めて経験する永遠の別れ。
おばあちゃんは最後に、俺に大切なことを教えてくれた。
人は死んでしまったらもう二度と会うことができないということを。

今回の入院生活でも、いちばん最初に思い出していたのはおばあちゃんのことだった。

父親も母親もいない家の中で、ずっと俺を待っていてくれたのはおばあちゃんだった。
幼稚園から帰る時、おばあちゃんがいてくれたから寂しく思わず家に向かえた。
窓辺に座り、いつも日向ぼっこしているおばあちゃん。
幼稚園のポーチやランドセルを受け取ってくれた。
ただいまと言ったらお帰りと言って笑ってくれた。
家に帰ってからの長い長い時間。
おばあちゃんの話す昔話や、読み聞かせてくれた絵本。
それがなかったら一日はどんなにもつらく長い時間だったろうか。

あやとりや、お手玉や、ずいずいずっころばしなんかの手遊び。
勝負をして負けると俺がおばあちゃんの肩たたきなんかをしてあげる。
昔の童謡なんかもいっぱい歌ってくれた。

ーーー赤い靴はいてた女の子

おばあちゃんが歌ってくれた沢山の歌たち。
その中でも哀愁漂うこの唄がいちばん好きな歌だった記憶がある。

母がいる時は慌ただしく活発な家。
取り巻いているスタッフや、様々な人が忙しく出入りする。
忙しさからか常に気分が高揚していた母は、おばあちゃんのことをよく怒鳴りつけもした。
スタッフの連中がおばあちゃんを邪魔にする時があった。
そんなとき、子供心に激しい敵愾心を感じたのを憶えている。

けど母がいなくなると、とたんに誰もいなくなる。
一陣のつむじ風が木の葉を舞い散らかし、何事もなかったように去っていくように、家はがらんどうとなる。
残されるのは俺とおばあちゃん。
けれどそのつむじ風が通り抜けた後こそが、俺とおばあちゃんの蜜月の時間だったんだ。

そのおばあちゃんが死んだ
死んでしまった
いくら呼んでも戻ってこない
いくら求めても帰ってこない

俺はこの世の終わりのように、洋服ダンスの中に隠れて泣きじゃくった。
そこにあった服で口を塞ぎながら。
通夜に来た誰にも見られることのないように。
父や母、それに親戚たち。
他の誰にも泣いている姿を見られたくなかった。

他に集まった誰もが、母も含めて、泣いていなかったから。
誰も感情を表に出して泣いている人はいなかった。
どこか慣れたような感じで、取り乱す人はいなかった。
みんな大人だったんだなーーー
その中に子供がひとりーーー

今だったらそれが大人の処し方だというのもわかる気がする。
けれど、俺は子供だったからーーー大声で泣きたかった。
大好きなおばあちゃんと、もう二度と遊べない悲しさを大声で叫びたかった。

でもどうしても、みんなの前では泣くことができなかったんだーーー

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現在俺の入院している循環器系の病室や病棟には、お年寄りがとても多い。
その中には瞳に人生への諦観を浮かべたお年寄りもいる。
そのお年寄りたちを見るにつけ、あの頃のおばあちゃんの姿を重ねてしまう。
俺と母が行かなければ、ほとんどお見舞いにいく人もいなかっただろう。
あの時のおばあちゃんも、どこかしらそういう瞳をしていた。
打ち捨てられた廃墟のように、もろく崩れ去っていくのを悟り待つような瞳。
生きていく希望を見失ったような瞳。

その後、おばあちゃんは痴呆症になってしまう。
足の骨折だけだったのに、寝たきりになり、様々なことを忘れてしまった。
俺の顔や名前さえもーーー

俺の寂しさを癒してくれたおばあちゃん。
でも俺はおばあちゃんが寂しいときになにもしてやれなかった。
今こうして病院のベッドに寝ていると、その時のことがよくわかるんだ。

だから、人に何かしらの勇気や光を与えられる、そんな人間になりたい。
そんな唄を歌っていきたい。そんな表現者になりたい。

そうおばあちゃんに約束しようと思うんだーーー

(続く)
(挿絵:ミロ

 

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