青い部屋

ぼくのママン其の壱:超高齢出産

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ーーーいくつものフラッシュが焚かれた

まばゆい光がぶ厚い層となり、白い闇が彼女を包む。
場所は渋谷にあったライブハウス『じぁんじぁん』。
今日はそこで彼女のリサイタルが行われていたのだ。

突如現れた取材陣に彼女は困惑していた。
リサイタル後の高揚感もあったろうし、それ以前に一体何の取材なのかがわからなかった。
彼女にとって妊娠も出産も、すでに一年以上前の出来事だったからだ。

そんなときたまたまリサイタルの陣中見舞いにやってきていた、なかにし礼氏と美輪明宏氏がその場を取り仕切り、大慌てで作った記者会見の場だったという。
その狭い会場に大勢の記者がなだれ込む。

フラッシュ フラッシュ フラッシュ
それに続いて、いくつもの質問が矢継ぎ早に飛び交う。

ーーー戸川さん、ご結婚されたというのは本当ですか?
ーーーお相手は?芸能関係の方ですか?
ーーー出産されたというのは本当ですか?

折り重なるような記者の質問。
それを美輪明宏氏となかにし礼氏が手慣れた感じで捌き、戸川が質問に答えるーーー

彼女が普通のタレントだったらこんな風には取り上げられなかったろう。
しかし、当時の彼女は歯に衣着せぬ剛胆な物言いでテレビなどで人気を博し、作家としても江戸川乱歩賞を受賞した無頼派の才女であり、周りを取り囲んでいたのは『青い部屋』で使っていたレズビアンやゲイばかり。最も結婚や出産とは縁遠い存在だと思われていた。
その彼女が極秘に、当時としてはあまり例のない父親不在の『別居婚』をしていた。
挙げ句に43歳という、当時の芸能界最高齢出産を記録したのだ。

ニュースバリューはありすぎるぐらいだった。

普段の彼女の振る舞いと出産という家庭的な言葉のギャップが生み出したのだろう。
マスコミや世間の評価はおおむね好意的だった。

自由奔放な生き方と家庭の両立ーーー
自立していて、新進的な考え方ーーー
無頼に振る舞っていても実は子煩悩ーーー

特に世間の耳目を集めたのは超の付く高齢出産だ。
テレビなどではフリップボードにランキングをつけてその話題を連日取り上げていた。

このあと、超高齢出産は戸川昌子の代名詞となっていくことになる。
歌手としてよりも、作家としてよりも、高齢出産の記録保持者としてマスコミに取り上げられることが多くなっていったのだ…

それ以来、彼女はあまり小説を書かなくなった。
というよりも、それ以上に世間的な関心は彼女がどう子育てに取り組むのかに集まっていったのだ。

奔放な女 作家 歌手 コメンテーター 青い部屋の女店主…
その他にも様々な仮面を着けて生きてきた彼女ーーー
その中に新たな仮面が加わった。
それは、母としての仮面だったーーー

NERO/あたしのママン

ーーーー<仮面>ーーーー

歌えば歌うほど 生きれば生きるほど
呼吸することが窮屈になるわ
お決まりのポーズに お決まりの話題
あたしをめちゃくちゃにしてくれればいいのに

探せば探すほど 求めれば求めるほど
あたしの喉は乾いてくるわ
期待はずれの情事に 的外れな台詞
あんたとなんてはじめからお遊びのつもりよ

ずいぶんかかったけど
やっと見つけたわ
あんたこそが
あたしのおとこ
あたしの仮面を剥がしてくれる
あたしのおとこ
だからあんたを壊すのよ
その倍あたしを痛めてちょうだい

ーーーー<終>ーーーー

(続く)
(挿絵:ミロ

 

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