青い部屋

ぼくのママン終章:愛と哀しみの果てに

mama12

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手術室の赤いランプが消えたーーー

中から執刀医が出てくる。
背後から煌々とした手術用のライトを浴び、逆光で顔がよく見えない。
医者は無表情に手術用のゴム手袋を外す。
手袋は大量の血にまみれて真っ赤になっていた。
いや、よく見れば手術着全体にしぶきの様な血液が付着している。
そのことが今回の手術がいかに大きなものだったのかを物語っていた。

ーーーどうだったんですか先生!?手術は成功したんですか?
ーーー彼は…彼は助かったんですか!?

物言わぬ医者にしびれを切らし、俺は叫ぶようにして訊ねた。
医者はすがりつく俺に一瞥をくれ、ゆっくりと手術室の前の廊下を歩き出す。
人気のない病院の廊下に足音がメトロノームのように響きだした。
その斜め後ろを従者のように付いて歩く俺。
彼は俺と目を合わせることなく、視線を前方に向けたまま独り言をつぶやくように話しだした。

難しい手術でした…
彼の疾患は生まれながらに持ち続けていたものみたいでしたから…
すでに身体の奥深くに根を張り巡らせ、彼そのものに変わろうとしていました。
もう少し発見がおくれ、手術に踏み切るのが遅かったら…彼の命はなかったと思います。
彼の病は心臓ーーーそして、その奥にひそむ心
それは年月を経るごとに彼の体中で肥大していき、彼を蝕み続けていたのです。

ーーー例えば…

彼は何度も自分で自分の命を絶とうとしたことがあったでしょう?
薬に溺れて自分を失くしてしまおうとしている時期もあったはずだ。
自分自身を見つけようとしてあがき、現実の中でもがき、何度も何度も失敗し、挫折を繰り返してきた。なにをしていても孤独を感じ、絶望感に苛まれ、常に息苦しさを感じていた。
人から見れば、彼は彼の人生を自らの手で壊そうとしているように見えたでしょうね。
ただ、ひたすらに破滅へ向かう人間に映ったことでしょう。
でもね…彼が本当に壊そうとしていたのは、彼に張り付いて剥がれなくなっていた仮面だったんです。あまりにも長い時間、あまりにも幼い頃から仮面を付けさせられていたので、彼自身それが仮面だということも忘れていた。自分自身の本当の顔も忘れていたのです。

俺は呆然としながら医者の言葉のひとつひとつを飲み込んでゆく。
仮面ーーー彼の顔は自分自身ではなかった…
俺はその場に立ち尽くしてしまった。
あまりにも多くの時間。
あまりにも多くの涙。
流れ行ったそれらの多さに、俺は立ち尽くすしかなかった。

医者も立ち止まりこちらを振り返る。
そして、血のしみ込んだ手で顔を覆っていたマスクをはずした…

君は…俺…?

優しげな微笑みをたたえた唇で
彼はゆっくりと語りだす。

けどね、ほらーーー
あなたは言えたじゃない
あなたの口で、あなたの言葉を
あなたの目で、見てきたことを
あなたの耳で、聴いてきた音を
感じるままに言えたじゃない…あなたの心を

ーーーだから、もう大丈夫…

医者が俺の胸に手を当てた…
あなたは生きている…
その鼓動を感じなさい…
あなたの命を信じなさい…

わたしは…あなた…
彼も…あなた…
全てはあなたが作り出している…
この世界も全部…
あなたの作り出した世界…
さあ…今こそ…ひとつに…なろう…

ーーー光

さあ…物語の扉を開いて…

この世界にただひとつ

あなただけの物語の扉を…

自由に紡ぎなさい…

あなたはあなた…他の誰でもない…

たったひとつの光なのだからーーー

(ぼくのママン第一部:完)

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<執筆後記>
毎日のように自分に向き合い、そして言葉に向き合ってきたこの自叙伝。
まだまだ書くことは山のようにあるのだけれど、退院を機にここでいったん筆を置こうと思う。
俺の中でどうしようもなくわだかまっていた幼年期から少年期。
このことを自分の筆で書き上げられたことは、俺にとって最大の試練を乗り越えられたことになる。

今回のブログ連載について、いちばん最初に告げたのはーーー他でもない戸川昌子だった。
心臓手術を前にした病室の中で、俺と戸川の間ではこんな会話が交わされていた。

ーーー例の約束、果たさせてもらうぜ。
ーーーああ、もちろんいいわよ。あんたの筆であたしを書きなさい。

例の約束とはもう四半世紀も前の約束だ。
この連載に登場する小学生くらいの俺が、戸川昌子を殴りつけた時のことだ。

ーーーふざけるな、このクソババァ!いつか絶対におまえのことを書いてやるからな!!
ーーーそうよ、あんただって書けばいいのよ。このあたしがしたみたいに。

長い年月を経て、今その約束を果たす時が来た。
剣と剣ではなく、ペンとペンでの一騎打ち。
だれも見ていない様な野良試合でかまわなかった。
戸川昌子を超える。
一言一句、自分の言葉で戸川昌子を乗り越える。
そして最大のライバルに打ち克ち、俺は先へと進む。

でも結果的に、それは自分自身を乗り越えることだった。
それは自分自身との闘いだったーーー

愛と哀しみの果てに…

俺がたどり着いたのは、ひとりひとりの人間としての関係。
親であるとか子であるとか、男であるとか女であるとか。
俺にとってはもう、それさえもどうでもいいことなのだ。
ただただ、人間。
どこまでも、人間。

強くても弱くても。成功しても挫折しても。
短くても長くても。愛しても憎んでも。

人間には人生がある。
それはたった一度の物語。
だれもが平等に輝きを持つストーリー。
人はだれでも、この長い歴史上たったひとりの存在。
かわりの命なんて存在しないんだ。

だから…
俺は俺の全てを肯定する。
俺は俺の全てに胸を張る。
人間を賛美し、命の讃歌を唄う。
なあ…お前も一緒に唄えよ。
俺と一緒に唄おう。
生きているこの時間を謳歌しよう。
お前はお前で、俺は俺で、なにひとつ間違っちゃいないんだ。
それでいいんだ。

これからもNEROの物語は続いてゆく。
いや、これからこそが本番なんだ。

どうか見ていておくれ。
そして参加しておくれ。
一緒に唄っておくれ。
おまえの人生讃歌を唄っておくれ。
そうすれば、この世界はもっともっと楽しくなれる。

熱く生きろ!
人生の時は限られている!
誰にも真似できない、自分だけの一生を全うしろ!

評判が良ければ、時間の許す中で第二部も書いていこうと思う。
それにこれからも、ブログでどんどん自分の感じることを発信しようと思う。
応援してくれよな!

読んでくれて、本当にありがとう。
今度はライブで逢おう!

こころから、愛を込めて?

ーーーNERO

あたしのママン/NERO

(挿絵:ミロ

 

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