青い部屋

ぼくのママン其の十:愛の贈り物

mama11

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ーーーー<哀の贈り物>ーーーー

哀しみはあなたを育てる もうひとりの親
生まれながらに涙は あなたを成長させる水となった
哀しみに溢れるこの世界は あなたを包み込む土となった
哀しみの中であなたはーーー育まれ華となった

哀しみのない世界なんていらない
哀しみのない喜びなんて騒がしいだけ
哀しみを知らない人間なんて美しくない
哀しみはあなたの宝物 
あなた自身を創り上げた宝物

これでやっとひとりになれる ひとりぼっちとはちがう
これでやっとひとりになれる ひとりの人間になるの

人は泣きながら生まれる それは分断の哀しみ
ひとつだった命が分かれ そこで初めての別れを知る
あなたはひとりで立ち上がり ひとりで歩き出す
生まれながらにあなたはひとり だれもがひとり

だから人を愛そうとする そこにまた哀しみが生まれる
だから人を憎もうとする そこにまた哀しみが生まれる
だから人はいつまでも求める そこにまた哀しみが生まれる
だから人は強がり忘れようとする そこにまた哀しみが生まれる

人とは何かをしようとするたびに 
愛と哀しみの狭間に立たされ
そこに感情が生まれる

喜びなさい
怒りなさい
泣きなさい
楽しみなさい
迷いなさい

それはあなた あなたのこころ

だから…
哀しみを知りなさい
哀しみを受け止めなさい
哀しみを友となさい
哀しみを糧となさい
そして…哀しみを愛しなさい

あなたはひとり たったひとり
この世でたったひとつの 尊い輝き

ーーーー<終>ーーーー

もうどれくらい前のことだったろう…
俺が青年の顔つきに変わろうとしていた頃ーーー

一枚のレコードを見つけたーーー
埃のかぶった古い物置の中にあった段ボール箱。
俺も母もすっかり忘れていた物置の奥にそれを見つけた。
ジャケットには、俺が誰もいない孤独な部屋の中で描き続けていたキャラクターの絵。
中央には仲良く戯れる親子の肖像がある。
初めての共作。初めてのふたりでの作品。
ともにあの頃の声を、あの頃の空気を、そこに閉じ込めたんだ。

愛の贈り物ーーーという古い曲。

息子が母のお手伝いをしながら、お小遣いをおねだりする。
肩を叩いたり、花に水をあげたり、お部屋の後片付けをしたり…
そのたびに息子はママの元へ駆けていき、誇らしげにお手伝いの報告をする。
その息子に向かって母親はこう唄うんだーーー

お前にはじめての あたしの贈り物はその命
その次にあげたのは 安らかな眠りと微笑み
おいしい食事や おもちゃや学校やお話も
おまえのためなら あたしの愛を 全部あげる

そして…子供の頃の俺は屈託のない声でこう答える

『ぼく、世界でいちばんママが好き!』

この唄を聴くたびに…母が歌うたびに…
今でもたとえようのない涙が込み上げてくる。
『月曜シャンソンコンサート』でも、カウンターで泣いてしまうことがよくある。
湧き上がるのはどうにもならないほどの愛情。
そして、この歌詞に出てくる親子の肖像とはかけ離れてしまった現実への喪失感。
それは『哀(あい)』という感情だったーーー
これはね『悲しみ』とはまた違うんだ。
とても切なくて
胸がしめつけられるほどに悼ましい
時という葬列への哀悼ーーー

母親との葛藤
現実への失望
未来への渇望

そして何もかもが失われたとき
何もかもが壊されたとき
何もかもが暗闇に閉ざされたとき

残されたのは光ーーー

『自分』という希望だったーーー

あたしのママン/NERO

(続く)
(挿絵:ミロ

 

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