青い部屋

NERO闘病記⑨:ICU(集中治療室)にて…術後当日、蘇生

diary09

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「ーーーさん!ーーーさん!!ーーー聞こえますか!?」

「ーーーわかりますか?!ーーーわかりますか?!」

ーーー声 
声だ
声が聞こえる…

誰かが俺を呼んでる
声がしている…
答えなきゃ

「ーーー」

あれ…なんだ…のど…いや…身体中が動かない…
そうだ…手術用の麻酔に…筋弛緩剤…

「ーーーさん!!!」
二度ほど頬を張られた…気がした

聞こえてるって!わかってるってば!
そう答えているつもりなのに、まるで声になっていないのが自分でもわかった。
自分の身体なのに、全くいうことがきかない。
かろうじてある意識の中で、自分の身体の中を探る。

腕、足、胴、首、顔……

だめだ、五体がことごとく動かない。いうことをきかない。
どうすればいい?どこだったら動くんだ?
身体の全神経へと意識を送る。

俺の呼びかけにかろうじて答えてくれたのは…

ーーー指。それも左手の小指の先だけがわずかに動く。
けれど、あまりにも微細な動きでこちらの意思を伝えることはできなかった。

あとはーーー眼球。ただそれだけだった。
幸いまぶたは開いていたらしい。
眼球を左から右へと動かしてみる。

「よし!気がついている。意識はあるみたいです!」

よかった。
どうやらこちらの意志は伝わったみたいだ。
ただ、こちらからはなにも見えていない。
ぼんやりとした光や黒い陰がうつろに明滅するのを感じるだけだ。

ーーーそこには母がいたらしい。手を握ってくれていたらしい。
何度も何度も呼びかけて、俺の名前を呼んでくれていたというーーー

時間の感覚もわからなかった。
時系列がバラバラになり、瞬間的な場面だけがパッチワークのように現れて消えてゆく。

突然呼吸が苦しいことに気付いた。
呼吸の仕方を忘れてしまったかのように、吸うことも吐くこともよくわからない。
心不全の時のような溺れるような苦しさとは違う。
呼吸そのもののやり方がわからないんだ。
ただ、苦しい。何か管のようなものがのどに入っている。

「苦しい?大丈夫ですか?」

ああ、苦しいんだ。
少しーーーもし少しでも頷けさえすれば麻酔で眠らせてもらえる。
それは解っていた。
けど駄目だ。首が動かないんだ。
こんなにも、こんなにも、もどかしいという想いを味わったことがない。
もうあと少しで届くのに…あと一センチで岸辺にたどり着くのに…
永遠にたどり着けない目の前の岸辺を目指す漂流者のようだ。

ーーーまただ、気を失っていたみたいだ。

気を失い、意識が戻るたびに少しずつ動ける箇所が増えていった。
腕が動くことに気がついた。と同時に腕がベッドに縛り付けられていることも知った。
腕を自由にしてくれ。そしてペンと紙を貸してくれ。
指と手のひらでわずかなジェスチャーをする。
それを読み取ってくれた看護師さん。涙が出そうになった。
点滴から流れてくる麻酔。
優しく俺を闇の毛布でくるんでくれた。
ありがとう。これでまた眠れる…

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渡されたペンで紙に書きなぐったいくつかの言葉。
ミミズのようにのたくった字で書かれていた。
翌日になってそれを看護師さんに見せてもらったんだ。

・いつまでつづく?このホースくるしい
・しゃべりたい
・水のみたい
・しゅじゅつ せいこうした?
・どれくらいねむれてる?
・じかんがたたないよ
・もっと ねむれるやつ いれて

(続く)
(挿絵:ミロ)

 

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